例えば、生徒がまるで落書き帳のように使っている「学校」があったとしよう。
壊れていない便器など存在しない。数学の授業ではバスケットボールが始まる。
絆だとか、仲間だとかそんな薄っぺらい単語を並べ、孤独を紛らわす屑の集まり。
もちろん私のように屑でない人間もいる。しかし、それはほんの一握り。
そんな人間は、集団意識を高めるためだけに仲間外れ。ハブられる。
蹴られた顔面の傷は、奴らの言う絆とは比べものにならないほど深い。
そんな日常の途中で、私は素晴らしく特殊な物を手に入れた。
大切に育てていた植物の実、から。
川д川は豆を食べるようです
从 ゚∀从「優等生ぶってんじゃねーよ!」
川д川「痛っ………!」
顔面に蹴りを入れられた。これで41回目。中学時代の記録を越えた。
へらへらと笑いながら去っていく私とは違う低俗な人間。ヘドが出る。
川д川「………………」
女子トイレの個室から出て、昨日バイトで稼いだばかりの金が盗られた財布をカバンにしまい
ひっそりと学校を出て、一人で家に帰った。
例え、どんなに遠回りになろうとも、下劣な笑い声が聞こえる場所を避けて家に帰った。
川д川「ただいま」
「」
習慣とは怖いもので、母親の怒号などは既に耳へ届かなくなっていた。
しきりに口を動かす母親を無視し、部屋へ戻った。
そして訪れる至福の時。快楽。快楽。
植物に水をあげた、私が大事に育てている真っ白な植物に。
近くの原子力発電所の近くで拾った小さく真っ白な豆。
まるで拾って下さいと言わんばかりの、可愛らしい丸っこい形をしていた。
私は操られるように、それを持ち帰り、すぐさま土に埋め、毎日水をあげ続けた。
そして今日でちょうど、それも二年になる。
その植物の成長はあまりにも遅く、ようやくつぼみが出来たところである。
川д川「早く大きくなってね」
この一言を言うだけで、私自身が全てから報われたような錯覚に陥る。
信用している物へかける言葉は、何より自分自身にかける言葉なのだと思う。
「」
母親が何か言っているようだが、どうせ大したことではないだろう。
まだ夕方だが、眠ることにした。お腹もすいていない。眠るのにはちょうど良い。
制服のままベッドに入り、私はすぐ眠りについた。
※
川д川「………ん?」
気付くと、私は広くてふかふかな土の上に立っていた。
ああ、夢か。気付くのにそう時間はかからなかったが、なんとも現実味のある夢だった。
「こっちにおいでよ」
声が聞こえた。振り返ると、巨大で真っ白な植物がそこにはあった。
あの鉢の中なのかな。そんなことを考えながら、言われるがままに足を進める。
振動。バランスを崩して地面に膝をついた。
上から何か落ちたようだ、植物の周りをぐるりと回ってみると、そこには大きな豆があった。
川д川「これ私の?」
返事はない。しかし聞く気もない。
私はその豆のもとに辿りつくと、美味しそうな豆を見て、無我夢中でかきむしり食べた。
川*д川「美味しい!」
植物が笑った。
私も笑った。
そのあと植物は色々なことを話してくれた。
そうやって話している間は生きている間で最も心が安らいだ。
植物は突然黙り込んだ。
川д川「どうしたの?」
「………………」
川д川「?」
「………渡したいものがあるんだ」
私の頭の上に何かが落ちてきた。
その正体は小さな黒い豆と白い豆。
黒い豆には目玉の絵が、白い豆には耳の絵が描かれていた。
「ねぇ、もうこんな世界うんざりでしょ?」
「ねぇ、願いを叶えてあげるよ」
「さぁ、起きて」
川д川「え」
視界が突然黒色に染まった。
※
川;д川「はっ!」
そこで夢から覚めた。
全身ぐっちょりと汗をかいている。
何だったんだろう。今のは。
川д川「でも………」
良い夢だった。
時計を見ると午前4時。夕方に寝たからなのか、あの夢のせいなのか。
分からないが、とにかく体は絶好調だった。
川д川「あ」
時計を見た時に視界に入った。
白い植物。なんとつぼみが割れて、中から何個かの豆が零れ落ちていた。
私は驚愕と感動を表して、その豆を鉢から両手で掬いあげた。
わぁ。と声を出し、その豆をまじまじと見つめた。
その時だった。その豆に描かれた目玉と耳の模様を見た時
私は何かに突き動かされるようにして、カバンを手にし、部屋を飛び出していた。
川д川「行かなきゃ」
思考は停止。
しかし分からないことはなかった。
この豆が何なのか、どういうものなのか。
疑問に思うことは一つとしてなかった。
※
( ゚∀゚)「かったりぃなー学校なんてよぉー」
从 ゚∀从「結局来てんじゃんw
誰かボコってうさ晴らしでもすれば?w」
( ゚∀゚)「うわwお前マジ悪党ww」
从*゚∀从「ギャハww」
川д川「………………」
从 ゚∀从「お、噂をすれば………」
ハインは毎日のように痛めつけている女を見つけ、それに近付く。
小柄なその女の顔に自分の顔をぐいっと近づけて、ニヤニヤと笑う。
从 ゚∀从「おいおいーw そんな強そうな目ェしてどうしたのー?」
川д川「………………」
从 ゚∀从「なんだよその目は………また蹴られたいのか? あん?」
ハインは女の髪を掴もうとする。
が、女は咄嗟にその手を払い、そこでニタリと気味の悪い笑みを浮かべた。
川∀川「ふふふ………」
そしてハイン達に背中を向け、廊下の角を曲がっていった。
从;゚∀从「………なんだよ、気持ち悪ぃな………」
( ゚∀゚)「ほっとけって、気狂ってんだろ」
从;゚∀从「ん、あぁ………」
ハイン達は教室に入り、登校の早い仲間と挨拶をした。
( ^ω^)「おいすだおーハイン、ジョルジュ」
( ゚∀゚)「おーっす」
真ん中一番後ろの席に座っているのがブーン。
そしてその机を激しく叩いているのが、デレだ。
ζ(゚ー゚*ζ「ちょっと、聞いてんのブーン? アタシ話してんだけど」
从 ゚∀从「はよーっ、相変わらず早ぇなお前らは」
( ^ω^)「フサとモララーは今日も遅刻かお」
( ゚∀゚)「遅刻しない方が珍しいっつーのw」
( ^ω^)「ハインは何だかんだで遅刻しないおね」
从 ゚∀从「オレは朝強ぇーからなw」
私、ハインリッヒ高岡はこんな風に悪ぶってみるのが夢だった。
こいつらは全員、万引きだとか援交だとか、非行を働いてる。
私は中学の時、そんなことなどしたことはなかった。
だが、やってみれば自分が何か特別な存在なような気がして、今日も、また楽しく生きられる。
やがて鐘が鳴り、前の方の席で真面目で地味な奴らが座った。
馬鹿な奴らだ、どうせこんな学校通ってんだから、いっそ悪くなっちまえばいいのに。
そんなことをずっと考えながら、今日も昼休みの時間が来た。
まぁ、授業中も大声で雑談してんだから、休みも何も関係ないが。
ミ,,゚Д゚彡「おっーす」
( ・∀・)「よ」
( ^ω^)「ようやく来たかお」
ζ(゚ー゚;ζ「ゲ、モララー」
( ・∀・)「よぉ援交女、昨日は何人とヤったんだ?」
ζ(゚ー゚;ζ「こいつガチでウザいんだけどー………」
从*゚∀从「ハハハ、面白ぇなお前ら」
購買行こうぜ、と声をかけて、一階へと向かった。
私達に弁当作ってくれる馬鹿親切な親なんていない。
購買に行かざるを得ないわけだ。
( ^ω^)「メロンパン一択だお」
( ゚∀゚)「俺はチョコにすっかな」
ζ(゚ー゚*ζ「ハインは何にする?」
从 ゚∀从「あーそうだなー」
興味をそそられるのがない。
仕方がないか、と他の奴らに馬鹿にされるのを承知で好きなパンを指さした。
ζ(゚ー゚;ζ「豆パン!?」
ミ,,^Д^彡「ガハハハハwwwオバさんじゃねーかwww」
从#゚∀从「うっせーな! 好きなんだからしょうがねぇだろ!!」
( ^ω^)「さすがハインだおw」
そのあと、教室に戻ってパンを食べながら雑談した。
いつもと同じで、気楽でいられる。
(;゚∀゚)「いてっ!」
ミ,,゚Д゚彡「どうした?」
(;゚∀゚)「なんかパンにかてーもん入ってたんだけど」
( ^ω^)「お。ジョルジュもかお。実はブーンもさっき」
(;゚∀゚)「ったく、なんだよ、ムカつくな」
( ・∀・)「問題だな。俺が学校に言っとくよ」
从 ゚∀从「………………」
午後の授業をサボって、学校をなんとなくジョルジュと歩くことにした。
( ゚∀゚)「そういえばあいつ朝から一回も見てねぇな」
从 ゚∀从「あいつ? あぁあいつね」
髪の長いあの女。
たしかに今日は異様な雰囲気だったが、特に気にすることもないだろう。どうせ、ビビって家に帰ったに決まっている。
(;゚∀゚)「つか、今日やけに蒸し暑いな、制服着てらんねー」
从 ゚∀从「あー確かに暑いな。もう秋のはずなのにな」
(;゚∀゚)「駄目だ、上脱ぐかな。何か汗ヤベーんだけど」
上着を脱いだジョルジュのワイシャツは
雨にあったかのようにぐっしょりと濡れていた
从;゚∀从「うわ、本当だ。何か悪いもんでも食ったんじゃねーのか?」
(;゚∀゚)「やっぱりさっきのチョコパンか、確かに変な味はしたけどさ………」
从 ゚∀从「………あれ? お前背中に入れ墨したのか?」
( ゚∀゚)「は? してねーよ」
从 ゚∀从「でも………なんか、模様見えるぞ…目………?」
(;゚∀゚)「こえーこと言うなよ、気のせいだろ」
从 ゚∀从「でも………」
私の言葉を遮るようにして、通りかかった男子トイレから怒鳴り声が響いた。
(#・∀・)「さっさと金出せって言ってんだろ!? あぁ!?」
(;><)「でも…駄目なんです………これは、お母さんが………」
(#・∀・)「てめーが働いて返せばいいだろ………オラ、よこせよ」
(;><)「うっ……うぅ……お母さん……ごめんなさいなんです……」
( ゚∀゚)「おー派手にやってんなー」
从 ゚∀从「だなwww」
ジョルジュも男子トイレに入って、たかられていた男の胸ぐらを掴む。
あーあ、可哀相に。真っ当な学校生活歩みたいなら、もっと良い高校入りゃ良かったのにな。
( ゚∀゚)「おい、ハイン。ちょっと長くなりそうだから、先行っててくれ、こいつと話つけなきゃなんねーからさ」
从 ゚∀从「あーはいはい。女子は教室戻ってますよ」
私自身。ストレス発散で誰かを傷つけることをしてはいるが
他人が暴力を振るうのを見るのは、心が痛む。
変な話だが、私みたいな中途半端な不良は、皆大体そんなものだ。
从 ゚∀从(イラつく奴をいたぶるから楽しいんだよな………)
楽しい毎日だが、薄っぺらい毎日だな。
このまま高校を卒業した私は、どんな人生を歩むのだろう。
ため息を一つついて、デレ達のいる教室へ戻った。
だから、その後に聞こえた悲鳴に私は気付くことが出来なかった。
後編
- 2008/12/25(木) 23:59:58|
- 短編
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